本研究では、暑熱環境下での運動トレーニングにおいて、より効果的な水分補給法を明らかにすることを目的とし、高温馴化したラットに運動トレーニングを負荷し、温熱脱水負荷後の回復過程において水と食塩水を選択的に摂取させ、水分と塩分の代謝ならびにsalt appetiteにおよぼす高温馴化と運動トレーニングの影響について検討を加えた。 実験は室温25℃にて約8週間の運動を行わせたものを運動群とし、また、高温馴化として室温32℃に曝露し、約4週間の運動を行わせたものを馴化運動群とした。上記の2群のラットに約8%の脱水負荷を行い、16時間の回復過程において水道水と1.8%NaClを自由に摂取させ、同時に尿を採取し、ラットの選択するイオン濃度を測定した。 脱水で失われた水分量(運動群8.14±0.39%、馴化運動群8.19±0.36%)の回復は、運動群では約13.5時間を要し、その後16時間の経過で約107%の回復を示した。馴化運動群では、16時間の経過で約93%の回復しか認めなかった。その際に摂取するNaイオン濃度は2群共4つの濃度経過を示し、運動群では、はじめの2時間を約42meq/1、2〜5時間を約118meq/1、5〜8時間を約32meq/1、8時間以降を約124meq/1で摂取し、また、馴化運動群では、はじめの2時間を約23meq/1、2〜4時間を約102meq/1、4〜13時間を約29meq/1、13時間以降を約169meq/1と2群共に希釈して飲水を行い、脱水回復過程においてsalt appetiteが関与することが認められた。次に、回復過程において摂取した水分量および摂取イオン濃度から排泄された尿量とイオン濃度を差し引いた、体内に貯留した水分量とイオン濃度の関係からみると、運動群においては16時間の経過で腎機能により適切に脱水前の値へと回復したが、馴化脱水群では4〜13時間中にみられる希薄な食塩水の摂取によりイオン濃度は負のバランスを示し、16時間の経過では脱水前の値の約60%の回復に止まった。これは運動時および高温馴化時に増加するとされる血液量および血液性状の変化によるものと考えられ、今後これらと飲水行動の関係について研究を進める予定である。
|