研究概要 |
本研究では,混住化農村におけるパーソナルネットワークの空間的範域とコミュニティの階級構造や住民のライフサイクルとの関連,その局地的コミュニティの意義づけなどについて,長崎市北郊長与町を事例地域として,おもに住民に対するアンケート調査(回答数485,回収率54.2%)から実証的に明らかにした。その結果は,以下の諸点に要約される。(1)日常行動に関しては,就業・購買・レジャーのいずれの活動も町内には完結せず,とくに長崎市がその目的地として優位を占めた(ホワイトカラー・専門職の長崎市通勤66%)。(2)社会的活動や交友関係では,42%はかなり頻繁に社会組織・団体の活動に参加し,スポーツ活動や趣味の会,ボランティア組織に参加する人も多く(48%),それらの組織は30%が長崎市に本拠をおいていた。多くは町内に親しい友人や親戚がおり(66%,とくに近隣44%),75%がここ数カ月の間に友人を私的に訪問し合っていたが,多くは町内に住む友人・同僚・親戚(60%)であった(長崎市居住者28%)。(3)空間的行動や社会関係から明らかにされる長与町の顕著なベッドタウン的性格は,町内の施設利用や行事参加にも反映されており,例えば,図書館や公民館に関しては約半数が利用したことがなく,20%近くが場所すら知らなかった。こうして「身近に感じる地域」は,長崎市を含む長崎都市圏(42%)と自宅の周りや近隣などの町内小地区(36%)とに分裂する傾向にあった。(4)住民の政治参加に関しては2/3がその必要性を唱え,その回路として1/3が自治会に関連した項目をあげているが,具体的な利益項目としては,ホワイトカラー=自然保護・景観保全・文化教育施設など,旧住民とくに農民・自営業者=農業振興・雇用対策といった社会・地域分化的状況が指摘でき,自治会以外の地域横断的な住民組織化が期待できない現状では,住民参加の政治的装置をどう設定するかが大きな課題である。
|