山地で生産された土砂の輸送システムの地域特性を明らかにし、地域差をもたらした要因を検討するために研究を進めてきた。調査対象地域は、東京都の秋川流域、石川県の手取川流域、長野県の梓川流域、長野県および新潟県を流下し、研究期間中の平成7年7月11日に土石流が発生した姫川、関川流域である。結果は以下の通り。 調査結果に基づき、河川を5つのタイプに類型化した。タイプIは、梓川上流の岳沢に代表される氷食谷に起源を持つ河川である。谷壁からU字谷の谷底への土砂供給は活発に行われているが、谷底では水が伏流し豪雨時にも表面流の発生が少ない。このため急勾配の河川であるにも関わらず土砂移動は不活発である。タイプIIは秋川上流域に代表される谷底に厚い堆積物が分布する河川である。谷底堆積物は測量および堆積物の調査から谷壁斜面からの崩落物質が現在とは異なる環境のもとで再移動したものと判断された。このような河川では、谷底堆積物の土石流による流出が礫の輸送において重要である。タイプIIIは斜面の崩壊を起源とする土石流による土砂輸送が卓越する河川である。既往の研究で扱われている多くの河川がこのタイプに属する。タイプIVは、手取川上流域に代表される、谷壁斜面の崩壊が頻発する河川である。高標高域で起伏が小さくなる流域にみられる。谷壁斜面の崩壊物質が河川流路をせき止めて形成された天然ダムが決壊し、きわめて大きな掃流力が発生することにより、勾配が小さな領域まで巨大な礫が大量に運搬される。タイプVは火山体を開析する河川である。火山体を構成する砕屑物が頻繁に土石流となって流下する。実際に土石流が発生した姫川流域の河川はタイプIII、関川上流域の河川はタイプVである。各タイプは、谷の前地形、過去に形成された谷底堆積物の存否、山地の起伏分布の違いによって形成された。各タイプの全国的な分布については今後の課題である。
|