本研究は、教室で行われる授業を文化的な営みととらえる立場から、同一の教室で行われる算数の授業を長期間にわたり観察することによって、児童の問題解決行動に対する「教室文化」の影響を実証的に解明することを目的として行われた。 そのために、東京都内のある小学校第5学年の教室における算数授業を対象に、約4カ月間にわたる参与観察によるデータ収集を行った。この結果、VTRによる授業の記録と授業プロトコル、児童のノートや学習感想などの記録、観察者によるフィールドノート等のデータが得られた。これらのデータを整理し、総合的に分析する作業が現在進行中である。特に、VTRによる記録に基づく授業プロトコルの作成作業と並行して、記述カテゴリーの類型化、分析を進めている。この結果、現時点までの限られた分析からではあるが、次のような知見が得られてきている。 観察した教室では、授業の基本的展開パターンとして、「問題提示」・「問題理解」・「個人による問題解決」・「全体討議」・「まとめ」といった過程として現われる「問題解決」型の「定型」がしばしばみられた。 また、観察開始当初とその後約4カ月間経過した時点との比較から、授業における児童の議論に対する教師の関与の程度が変化していることが確認された。すなわち、授業のなかで明示的に言及されないにもかかわらず、「まず相手の考えを聞く」といった一定の「ルール」を次第に児童が「守る」ようになり、それによって教師の関与が少ない状況での意見のやりとりが可能になってきたと考えられるのである。さらに、問題解決の方法・結果に関する議論においては、「表現の的確さ・簡潔さ」、「方法の一般性・適用可能性」などの「数学的な価値」が一層焦点化されてきている傾向が確認された。
|