本研究は、1年間に亘る教師の授業運営のあり方を、教師自身にとっての授業を中心とした学校生活における経験に基づいて探索している。授業運営を教師自身の考える基準(満足度や授業観など)に到達しているかどうかを日々の教育実践における問題状況の把握という形で抽出することを試みている。この方法は、授業日誌方式と呼び、研究代表者が開発したものである。同時に、毎月授業のVTR記録とそれに基づくインタビュー、および教師自身による一人ひとりの自動の目標に記入を行なった。これらのデータをコンピュータを活用しながら、KJ法により分類し、授業運営の変容を明らかにしている。対象は、初任者教師を想定していたが、阪神大震災の影響により教職経験14年の女性教師となった。ただ、担任した1年生に今まで対象教師が担当したことのないタイプの児童が数人含まれており、初任者教師の授業運営能力、特に児童理解のあり方に関しては有用なデータであると想われる。 分析の結果、次のことが明らかになった。第一に、教師は一人ひとりの子どもの理解(学力、性格面)にかなりの勢力を注ぐが、その観点は学級としての秩序維持から問題となる行動である。次に、ある程度学級秩序が形成されると、教師は児童のプラス面を評価するとともに、一人ひとりの個別目標を設定し、授業において働きかけるようになる。第3番目として、教師は問題状況に接しても、即時的に手立てを打たず、問題状況での児童の行動の意味解釈を熟慮的に行なうことが多いことがあげられる。最後に、授業を運営していくために必ずしも学力が高いのではないが、教師自身も言語化できない特徴を持った児童をリーダーというよりも教師のメッセンジャーを育てることが要件であることが示された。 また、開発した授業日誌と授業VTRによるインタビュー等の手法を組み合わせて用いることは、教師自身の成長を促し、かつ児童理解を深化することに役立つことが示唆された。
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