本研究は、アメリカにおける家庭科教育の成立過程を連続的かつ漸進的な変化の過程として捉え、伝承的な実用的家事から生成した家政的教科論を三類型化し、それらの発展の様相を検討するとともに、家庭科教育が教科として確立したことを明らかにした。 アメリカ社会の産業構造の変革によって、家政的教育は生活の科学化運動の影響を受け、レイク・プラシッド会議(LPC)によって科学の知識や方法を体系的に教授するハウスホールド・サイエンス論を中心とする科学主義の教科論が構想された。この構想は教育界には受け入れられず、全米教育協会(NEA)は新教育運動の理念を持つ技芸主義のドメスティック・アーツ論を展開した。LPCが研究を進め影響力を持つ中で、LPCとNEAは歩み寄り、科学主義と技芸主義を統合するホーム・マネージメントを打ち出し、「よき家庭建設」を目標とした被服、食物、住居及び家庭管理と社会施設管理の四領域からなる家庭科教育論に統一し、教科の基本理念や性格及び内容などの基礎を構築した。 一方、この教科はスミス・ヒューズ法の適用を受けるべく、職業教育としての経済的援助を受ける行政上の条件をも具備していった。その結果、成立期家庭科教育は職業教育の教科として位置づけられた。他方、NEA『中等教育の基本原理』により、「よき家庭建設」は「よき市民」を育成することであり、ひいては民主主義の社会を維持する原点となるという普通教育としての理念も内包した。アメリカ中等学校の家庭科教育は、世紀転換期の教育改革運動の結果として、それらの共通の到達点として成立したのである。
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