本研究の最終的な目的は、日本語能力やこれまでの学習経験が日本人学生とは異なる学部留学生を対象として、講義形式の授業において用いられる学習方略を分析し、どのような学習方略がどのような条件で有効に働くかについての知見を得ることにある。本年度は、文学部で行われた講義形式の授業の中から、留学生対象の「文学」の補講(90分)をビデオテープに録画して、以下のような方法で分析を行った。 第一に、ビデオテープに録画した授業を文字化した。これは、講義の構成を分析し、レジュメおよび板書を流れの中に位置づけ、被験者の内省との関連を探るためである。 第二に、被験者として学部に留学している短期留学生(海外の大学から1年間日本に留学している者)3名を選び、授業後にビデオテープを再生しながらその授業にどのように学習方略を用いたかを内省してもらい、音声テープに録音して文字化した。同時に授業中に取ったノートと書き込みのあるレジュメをコピーした。被験者は3名とも漢字圏の留学生で、専攻は日本語学および日本文学である。 今回の被験者の内省からは、講義内容に対する興味が深い学生はその時間のテーマを正確に理解し、同時に取り上げられた作品の意味についての説明の際に頻繁にメモを取り、既知の情報と結び付けて理解しようとしているのに対し、興味をあまり持たない学生は、説明された事柄のうち、より形式的な側面に着目し、レジュメへの書き込みも少ないという傾向が観察された。 本年度の分析は、短期留学生が授業内で用いた学習方略に限定されたものであった。今後、データ収集の方法と分類の方法についても検討した上で、被験者の範囲を広げ、授業内外の学習方略を対象としていく必要がある。
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