本研究では、平成6年に本学で実施した工学基礎実験を行わせる授業の補完教材として作成したプリント教材「科学技術基礎日本語」(試作版)を改良し、一層充実した教材を作成することを研究の目的とした。 そのために、以下のような手順で研究を進めた。 (1)理工系用教科書や実験書、特別講義ビデオのスクリプトなどから指導対象となりそうな表現を抽出し、約1300表現から成るデータベースを作成した。 このデータベースに収めた表現は、その意味ごとに「性質や状態の描写表現(例:軽い、湾曲した)」「変化を説明する表現(例:変形する、白濁する)」「実験・研究に必要な動作・操作表現(例:切断する、ねじる)」「概念名称(例:平均、抵抗)」「概念操作を表わす表現(例:定義する、値を入れる)」「副詞的表現(例:常に、交互に)」などのカテゴリーに分類される。 (2)(1)で収集された表現について、日本語教育分野でどのように取り扱われているかを調べるために、『品詞別・レベル別1万語語彙分類集』(専門教育出版、1991)を用いて核表現の難易度を照合した。 (3)続いて、この照合により難易度レベル上位の表現について、さらに『学術用語集』に記載されているかを確認し、記載されている表現については、専門用語とみなし、データベースより約280の表現を削除した。この作業により、本研究が求める「はざまの日本語」(現状の日本語教育教材がカバーしている部分と専門課程などでの専門日本語指導が対象とする部分の間にある表現)の輪郭がある程度明らかにできた。 (4)つづいて、データベースの表現をどのように教材化するかを検討し、本研究では、「概念・機能シラバス的アプローチ」を取り入れることとし、各意味カテゴリーの中で、類似あるいは関連した表現をひとまとめにすることにより、各表現間の微妙な差異を明らかにし、科学技術日本語が求める曖昧性を極力排除した表現の重要性を理解させられるように配慮した。 (5)次に、各表現の導入方法を検討した。導入に当たっては、できる限り学習者の母語を介さずに意味が直接理解できるように線画によるイラストを利用することとした。動きや音などを伴う表現については、本研究と並行して作成されたビデオ教材を活用することとした。 (6)各課ごとに練習問題を作成した。 (7)できあがった教材を、平成7年に実施された日本語集中プログラムやその他の日本語授業で実際に試用し学習者より好評を得た。また同時に得られた有効な提言などをもとに、さらに改良を加えた。
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