研究概要 |
ソフトウェアの分散開発に不具合が生じる原因は,開発を行なう環境を構成する要素にあると仮定した.そこで,以下にあげる3つのパラメタを環境の構成要素とし,それぞれのパラメタにおいて2つの異なる値を選んで.開発を行なう分散環境の分類を行なった. 1.作業を行なう地理的な場所に関するパラメータ,値は「同じ場所」もしくは「違う場所」. 2.作業を行なう時間帯に関するパラメータ.値は「同じ時間帯」もしくは「違う時間帯」. 3.情報交換のための主な媒体に関するパラメータ.値は「音声」もしくは「文字」. これらのパラメタをもとに,現在する環境を考慮して,以下の4通りのパラメータの作業環境を実験対象とした. 1.同じ場所,同じ時間帯,音声,2.違う場所,同じ時間帯,音声.3.違う場所,同じ時間帯,文字.4.違う場所,違う時間帯,文字. 被験者にはOMT法を用いてオブジェクト図を記述する作業を行なってもらった.これらの環境の構築のためには,電子メールシステム,既存の電子会議システムなどを用いた.それらのシステムの持つログ機能,およびビデオカメラを用いて分析のための記録をとった.また,第1のパターンの場合では,同室で音声を用いるため,ワイヤレスマイクを利用して個々の作業者の音声を記録した. 上記の実験の分析から,作業時間帯に関する影響が,他の要因と比べて大きいことがわかったため,作業時間帯の差異の影響を詳細に調査するための実験を別途行なった.共同作業が阻害されているか否かは,会話などの共同作業が結論が出るまで行なわれたかどうかを尺度とし,作業の結果として生産される文書やプログラムなどは本研究では対象としなかった.この尺度を「完全な作業の割合」とした.また,作業時間帯が同異によって,1回の情報交換における話題の量が異なる傾向が見られた.そこで「情報交換量の複雑さ」という尺度を導入した.その結果,完全な作業の割合と情報交換量の複雑さの関係が,作業時間帯の同異によって,それぞれ異なる特性に従うことがわかった.具体的には,実験で得られたデータの範囲では,作業時間帯が同じ場合には,2つの尺度が比例関係にあり,作業時間帯が異なる場合には,逆比例の関係にあることがわかった.これらより,作業時間帯と情報交換量の複雑さの2つの尺度が,共同作業阻害要因の検出モデルを構成するための重要な要素となっていることを結論した.
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