研究概要 |
本研究課題では, (1)デンプスター・シェイファー理論に基づく証拠推論に人工生命の枠組から新たな定式化を与えること (2)遺伝的アルゴリズムの適用による証拠推論の計算量を軽減すること (3)その画像検索におけるあいまいな質問の特定化への応用 が目標であった.以下,各項目に関して得られた結果を述べる. (1)証拠推論において妥当性があると思われるコーディングを列挙し,比較検討を行った.それに基づいて遺伝的アルゴリズムのオペレータの証拠推論における意味を考察した結果,分かったことは,証拠推論で複数の証拠を統合するためのデンプスターの結合規則が人工生命における「創発」と深い関係がある点である.すなわち,デンプスターの結合規則の問題点は互いに矛盾する証拠を結合する場合,正規化という操作によって事前には直接支持のなかった第3の候補が推論結果となる点であり,演繹的推論の観点からは問題があるが,発見的推論という観点で見れば,それはなんら問題点ではなく,新しいものを選び出すための積極的な方策と理解できる.その意味で,この規則は一種の創発現象を表現するものであることが分かった. (2)本手法をモンテカルロ法に基づく近似計算法と比較した.その結果,少なくとも後者の方法より計算量が大きくないことは判明したが,激減までには至らず,更なる改良が必要なことが分かった. (3)(2)も結果によって,一昨年度の文部省奨励研究(A)の援助によって構築した2次元線画レベルの画像検索のためのプロトタイプシステムを3次元線画を扱えるまでに拡張した. 今後の課題として,本研究の理論的考察の結果,本定式化において,マイケル・ポラニ-が提唱した暗黙知の構造を見い出すことができる.これは人工知能におけるフレーム問題と密接に関連することが知られており,これを理論化できれば,信念形成や知識獲得に対する一つの知見が得られるであると考えられる.
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