研究概要 |
1.目的:境界の不明瞭な対象として「非常に」のような副詞を用いた言語的な程度表現を採用し,それらの主観的な類似度とそれらに対応するファジィ集合から得られる数学的な類似性指標との対応関係を明らかにすることを目的とした.実際問題への応用を考慮して被験者個々に最もよく対応する指標を見いだすことよりも,被験者に共通する指標を見いだすことに重点を置いた. 2.実施内容:実験1では副詞と「高い」を組合せた高さの言語的な表現8種を評価の対象として採用した.まず被験者に8種の程度表現語のファジィ集合を同定させた.次にそれらを対にした28組の主観的な類似度をカテゴリー評定尺度図を用いて評定させた.そして得られたファジィ集合から16種の数学的な類似性指標を28組について計算し,両者の対応関係を考察した.有効被験者は13名であった.また実験2では実験1から得られた知見を検証するために形容詞を「重い」に変えて実施した.他の条件は実験1と同様とした.有効被験者は10名であった.両実験及びデータ解析には主要設備として購入した計算機及びソフトウェアを使用した. 3.主な知見:主観的な類似度と数学的な類似性指標の相関係数及び類似度評定と数学的指標の順序との不一致の2種の解析を行った.その結果,実験1及び2ともに本研究で採用した指標の中では被験者に共通する傾向として,t‐normを用いたファジィ集合の重なり方に関する指標よりも,ファジィ集合間の距離に関する指標が主観的な類似度をよく説明することが明らかになった.また両実験の結果が同様の傾向を示したことは,程度表現語の類似度に関して今回得られた結果の普遍性を支持している.現在類似性の指標として重なり方の指標がよく使用されている.しかしその指標を主観的な類似度を考慮する必要のある対象に用いると適切さを欠く場合があることも示唆している.
|