近年、原子核実験では偏極ビームを使った実験が盛んに行われるようになり、ビーム、ターゲット共に偏極粒子を用いられるようになってきた。しかし、偏極イオン源の生成方式では、ビーム強度は最大1mA程度と非偏極イオン源に比べてビーム強度が弱いため、今後さらに高強度ビームを必要とする実験には使用できない。また、性能向上のために周辺機器も含めたイオン源全体は大型化しており、設置スペース等の面でも問題が生じてくることが予想される。そこで今後、新しい方式に基づいた、高強度偏極イオン源の開発が必要不可欠となっている。本研究では、新しい方式による小型偏極粒子源の有効性を評価することを目的とした。この方式では、原子線型偏極イオン源の方式と基本的に同じ構成要素を使用しそれらを輸送導管で接続することにより、得られる偏極原子密度の増加、即ち高強度偏極粒子の生成が期待できる。また、装置の規模もコンパクト化が可能となるので運転・設置が容易になる利点もある。本研究ではまず、原子生成用解離器から六極磁場中に放出された水素原子が、輸送導管を通過しながら電子偏極されるかどうかをシミュレートした。その結果、分子流条件を越えないような原子密度でなければ、再結合及び減偏極を生じないことが判明した。そこで、実際にパイレックスガラス製の解離器及び輸送導管を製作し、生成した水素原子のビーム強度を、コンプレッション管の真空度変化を測定することで求めた。また高周波遷移器のON/OFFにより、核スピン遷移も確認することができた。また、原子再結合抑制用として用いられるガラス管内壁のコーティングについても検討した。解離部にもコーティングを施した測定において、放電の際コーティング材の主成分である炭素、シリコン等が検出されたため、コーティングは、解離器部以降のみに行なうべきであることがわかった。
|