トリチウム水1回曝露の急性影響に関してはマウスを用いた実験により自由水の代謝を高めることにより体内よりのトリチウムの排泄促進とそれに伴う各種生物学的影響の低減を観察し報告してきた。しかし体内に取り込まれたトリチウム水は有機結合型トリチウムに置き換えられたり、また食物等を介し有機結合型トリチウムの状態で体内に摂取される可能性もある。有機結合型トリチウムはトリチウム水と異なり一度体内に取り込まれると生物学的半減期が長く体内からの排泄が遅いことが知られている。また有機結合型トリチウムによる被曝に関する影響低減法の系統だった研究はほとんどされていない。そこで本研究では自由水トリチウムだけでなく有機結合型トリチウムの体内動態を変化させることにより被曝影響の低減化を検討した。 これまでの実験結果を踏まえB6C3F1マウスを使用した。1)マウスに経口的にトリチウムラベルのアミノ酸、脂肪酸、ヌクレオシドすなわち3H-リジン、3H-パルミチン酸、3H-チミジンを投与した。2)排泄促進処理としては治療薬として幅広く使用され安全性の確立している甲状腺ホルモンのサイロキシンあるいはカテコラミンの一種エピネフリンを連日投与した。3)上記マウスを専用ラック内で飼育し、経時的に新鮮尿を採取し、尿中トリチウム濃度を測定した。また10日後に屠殺解剖し、各臓器を摘出、サンプルオキシダイザーで処理し臓器中のトリチウム濃度を比較した。 その結果、尿中トリチウム濃度は、軽減化傾向にあったが有意ではなかった。一方、サイロキシン、エピネフリンいずれの処置群でも、脾臓、腎臓、大腿骨、筋肉中などの臓器中のトリチウム濃度が低下していた。したがって、これら代謝亢進剤により有機結合型トリチウム対外排泄の促進が図れる可能性が示唆された。
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