研究概要 |
本研究では、塩基溶脱を伴う酸性化処理と塩基溶脱を伴わない酸性化処理を褐色森林土に行い、それらの土壌で育成したスギ苗の成長と栄養状態を調べた。まず、土壌からの塩基溶脱を伴う土壌酸性化処理区を設定するために、風乾土510gを、底に穴をあけた500mLポットに詰め(486.7g乾土/ポット)、土壌表面からpH2.0に調整した硫酸溶液を、1ポット当たり1.0,1.5,3.0または、5.0Lずつ、徐々に添加した。塩基溶脱を伴わない土壌酸性化処理区を設定するために、乾土で9.51kgに相当する風乾土に、0.19Nまたは、0.27Nの硫酸溶液を1L添加した。硫酸溶液を添加しない土壌を対照土壌とした。各土壌を詰めた500mLポットにスギの2年生苗を移植し、100日間にわたって温室内で育成した。 土壌酸性化処理区で100日間育成したスギ苗の個体乾重量の相対値〔Relative TDW(%)=(土壌酸性化処理区の個体乾重量/対照区の個体乾重量)×100〕と土壌pH(H_2O)との関係を調べた結果、全体的には正の相関が認められたが、土壌pHが3.7付近では塩基溶脱を伴う土壌酸性化処理区のRelative TDWは、塩基溶脱を伴わない土壌酸性化処理区に比べて低かった。土壌の水溶性Al濃度の増加に伴い、Relative TDWは低下したが、Al濃度が約30μg・g^<-1>以下の場合、塩基溶脱を伴う土壌酸性化処理区のRelative TDWは、塩基溶脱を伴わない土壌酸性化処理区のそれに比べて低かった。これに対して、土壌酸性化処理の方法にかかわらず、土壌における(Ca+Mg+K)/Alモル比の低下に伴って、スギ苗のRelative TDWが低下した。 以上の結果より、酸性雨による土壌酸性化が、森林樹木に及ぼす影響を評価する場合、土壌におけるAlなどの有害金属の濃度のみならず、植物必須元素の濃度も考慮する必要があり、酸性雨による森林生態系被害の将来予測や臨界負荷量の評価において、カチオンとAlのモル比は重要な指標になると考えられた。
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