平成7年5〜10月にかけて筑波山北麓を流れる小桜川と川又川でシマトビケラ類(ウルマ-シマトビケラ:薬剤感受性種とコガタシマトビケラ:薬剤耐性種)の幼虫を生きたまま持ち帰り4令幼虫と終令幼虫に分けそれぞれガラス製水槽に入れて流水式(スターラー)で飼育を行った。各令期の幼虫にダイアジノン、フェンチオン、フェニトロチオンなどの有機リン系殺虫剤をそれぞれ5μg・1^<-1>の低濃度(野外で最大検出される程度の濃度)で暴露して、その成長期間をコントロールと比較した。その結果、ウルマ-シマトビケラでは、4令→終令、終令→蛹の成長は各薬剤で抑えられ、コントロールに比べて脱皮が5〜7日間程度遅れた。また、コントロールが70〜80%の個体で蛹化まで達したものの薬剤投与では10〜20%程度しか蛹化しなかった(とくにダイアジノンでは0〜10%程度しか蛹化が認められなかった)。しかし、コガタシマトビケラでは、薬剤の影響はみられなかった。シマトビケラに薬剤を投与して3日後に湿重量がそれぞれ3mg±1mgの4令幼虫と12mg±3mgの終令幼虫に薬剤を投与して幼虫体内のオクトパミン等神経伝達物質を液体クロマトグラフィーで測定した。その結果、ウルマ-シマトビケラの4令幼虫と終令幼虫でオクトパミン量がコントロールの2.8〜3.5ng・mg^<-1>に対して、薬剤投与では6〜8ng・mg^<-1>と高くなった。一方、コガタシマトビケラでは2.5〜4.2ng・mg^<-1>とコントロールとあまり違いが見られなかった。以上の結果から、薬剤感受性種であるウルマ-シマトビケラは、野外において低濃度の殺虫剤に暴露されるとで成長にかかわる生理学的影響を受けている可能性があることが示唆された。
|