本研究では、人間活動がもたらす便益や費用、リスクのそれぞれを負担する主体が乖離する傾向にあることに鑑み、今後のリスク対策を効率性とともに社会的な公正という視点から捉え直し、新たなリスク管理のための基礎的な知見を得ることを目的とした。 本研究で明らかになった点は、次の3点である。第一に、米国では環境影響と住民の社会的属性との関係を公開されている行政データに基づいて研究が進められているが、わが国では同様の研究に必要なデータへのアクセスが極めて困難であるため、同様の研究は容易に遂行できない。また、わが国で検討が必要と思われる複数の都市圏や地域を包括する広域環境に対する研究は比較的少ない。 第二に、東日本地域を対象とした産業廃棄物の広域処理に関する調査の結果、行政が把握している行政区域外からの廃棄物搬入量は全体として減少傾向にある。ほぼ全ての各自治体がこのような状況を望ましい方向と考えており、平成8年度から開始される廃棄物処理計画の策定段階でも積極的な姿勢は示されていない。しかし、国は処理・処分の実効性を高めるため都市圏の枠を超えた広域的な処理を進める方針を打ち出しており、都県レベルと国の方針との間に整合性を見出しにくい。行政当局におけるこのような対応は環境的な公正を担保する上で好ましいものとはいえない。このため、廃棄物処理に伴い発生するベネフィット、コスト、リスクの負担主体を考慮した広域的な視点から各都県の方針を調整する機関や組織の必要性が極めて大きいことが示唆される。 第三に、産業廃棄物に限らず一般廃棄物や電気・水道等のライフライン供給、また観光資源の開発にも必要になると考えられる。各々の問題について他の問題との共通性と特殊性を検討し、設定されるべき地域間の調整機関や組織のあり方を今後検討する必要がある。
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