生体機能への関与が最近明らかにされたオリゴ糖は医薬品としての重要なターゲットの一つであり、その効率的な合成のためにはグリコシド化反応の位置および立体選択性を同時に制御する新しい手法の開発が強く望まれる。そこで、この新手法として、あらかじめ糖供与体と糖受容体をポリエチレングリコール鎖を介してつなげておいて、アルカリ金属存在下グリコシド化を行う方法を考案した。この方法では、ポリエチレングリコールからクラウンエーテルへの環化をともなうため、グリコシド化反応の選択性が金属イオンによるテンプレート効果により助長されることが期待された。当初、モデル実験として糖供与体であるエチルチオマンノピラノシドの2位水酸基にトリ、テトラ、およびペンタエチレングリコールの末端をエーテル結合させた化合物で、N-ヨードスクシンイミドを用いてもう一方の末端の水酸基の分子内グリコシド化を検討した。この結果、いずれの長さのポリエチレングリコールを用いても、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウムなどのアルカリ金属の存在はグリコシド化の収率を低下させることが判った。さらに糖受容体としてマンノースの2位水酸基にポリエチレングリコールを結合させて、3位の水酸基でのグリコシド化を試みたが、金属のあるなしにかかわらずグリコシド化は全く進行しなかった。一般にメチレン鎖をリンカーとしてあらかじめつないだ2糖のグリコシド化では良好な結果が得られているので、リンカー内に酸素原子が存在すると反応を妨害するものと思われる。一方、モデル実験で得られたβ-マンノピラノシド-クラウンエーテル複合体はアミノ酸などを不斉認識する光学活性クラウンエーテルとして期待が持たれるので、今後さらに合成的検討を加える予定である。
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