ムラサキ培養細胞のシコニン系色素生産は、細胞に酸性多糖を投与することによって誘導されるが、申請者はそのシグナル伝達の際のセカンド・メッセンジャーが、低分子脂肪酸の一種ジャスモン酸およびそのメチルエステルであると考え実験を行った。ムラサキ培養細胞にDMSOに溶解したジャスモン酸メチルを最終濃度10^<-7>M〜10^<-4>Mとなるよう無菌的に投与したところ、本化合物は用量依存的にシコニン生合成を誘導した。また、投与時、細胞にセル・ポレーターで微小な物理的傷害を与え、ジャスモン酸メチルの取り込み率を向上を図った。シコニン系色素を経時的にHPLCにて定量したところ、シコニンはジャスモン酸メチル投与後3日の1ag timeをおいて誘導され、その後直線的に増加した。この効果は活性酸性多糖で見られたものと同一であり、多糖100μg/mlに相当するジャスモン酸メチルの濃度は10μMであった。 一方、ジャスモン酸メチルを投与したムラサキ培養細胞から粗酵素液を調製し、シコニン生合成上の一連の酵素活性phenylalanine ammonia-lyase(PAL)、PHB:glucosyltransferase(GluT)、β-glucosidase(BGD)、PHB:geranyltransferase(GT)を測定した。その結果、ジャスモン酸メチルによってPAL、GT活性は増大し、シコニン生合成能を上昇させる方向に、また、BGDは変化しなかったものの、GluT活性は抑制を受ける方向に変化が見られ、このことは生合成中間体であるfreeのPHBを増加させる方に代謝の流れが変移したとみなすことができる。これらの結果は全て、酸性多糖による効果と非常によく対応しており、ジャスモン酸メチルのシコニン生産誘導が、多糖によるそれと等価であると判定することが出来た。 さらに、多糖のによって実際にムラサキ培養細胞からジャスモン酸が遊離してくることを確認するべく実験を行ったが、本培養細胞の場合バックグラウンドが大きく、内性遊離ジャスモン酸を明確に同定することは出来なかった。本実験系に適した抽出、及び検出のための詳細な条件検討が必要と思われる。
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