研究概要 |
ATP合成酵素(F_0F_1-ATPase)は,酸化的リン酸化において,膜を介したH^+輸送に共役してATPを合成している.本研究では,ATPの合成/加水分解の触媒作用とH^+輸送路を通るイオンの輸送とが,どのようにして共役しているかを明らかにするため,我々がエネルギー共役を調節していることを明らかにしたγサブユニットに着目し,β/γサブユニット間の相互作用を解明するべく研究を進めた. 我々が既に単離していた大腸菌γサブユニットのフレームシフト変異株(γfs)では,γサブユニット(286アミノ酸)の277番目のコドンにフレームシフト変異が起きた結果,7残基長くなった変異γサブユニットが生合成される.この変異株のin vivoでのATP合成活性は非常に低下していたので,βサブユニット上に抑圧変異を同定したところ,γサブユニットのフレームシフト変異が,βサブユニットのβArg-52→CysおよびβGly-150→Aspの変異でそれぞれ抑圧されることが明らかになった.興味深いことに,βGly-150残基は,触媒活性に必須なβLys-155, βThr-156に近接していた.また,γfs/βCys-52の二つの変異をもつ酵素の活性は野性型の70%まで回復していたが,γfs/βAsp-150変異酵素ではATPase活性の回復は見られなかったことから,この変異株では協同性が回復したと考えた.以上の結果は,γサブユニットとβサブユニットの相互作用が,触媒活性あるいは協同性に重要であることを示していると考える.これらの結果についてはJ. Boil. Chem.に報告した.
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