オルニチン脱炭酸酵素アンチザイム(アンチザイム)は、ポリアミンにより誘導され、細胞内ポリアミンのフィードバック調節にあずかる蛋白質である。われわれはポリアミン依存性の+1翻訳フレームシフトがアンチザイムの発現とその調節に必要であることを、試験管内翻訳系において明らかにしてきた。本研究では、アンチザイムのフレームシフト効率の計測が可能な哺乳動物細胞発現系を構築し、本フレームシフトが細胞内有効ポリアミンレベルのインディケーターとなりうることを示した。さらにポリアミン依存性はアンチザイムのフレームシフトに特異的であり、レトロウイルスのフレームシフトには認められないことを明らかにした。 新たに構築した細胞内発現ベクターは、指示遺伝子として5′側のβ-ガラクトシダーゼおよび3′側のルシフェラーゼを有し、両指示遺伝子間のクローニング部位にフレームシフト信号を含むcDNA断片を挿入することにより、翻訳フレームシフトに応じたルシフェラーゼの発現が得られる。実際には、細胞抽出液のβ-ガラクトシダーゼ活性/ルシフェラーゼ活性比測定によってフレームシフト効率が求められる。アンチザイムのフレームシフト信号を挿入したベクターをCos7細胞で一過性に発現させた実験では、培養液へのポリアミン(プトレッシン・スペルミジンおよびスペルミン)添加はフレームシフト効率を増加させ、最大フレームシフト効率は約30%に達した。一方、細胞内ポリアミン濃度を減少させるジフルオロメチルオルニチン処理によりフレームシフト効率は低下した。これらの薬剤の効果はhuman immunodeficiency virusのgag-pol融合蛋白質発現に関わる-1フレームシフト信号を挿入したベクターでは見られなかった。このフレームシフト検出系はCos細胞のほかNIH-3T3およびHeLa細胞でも作動することを確認した。
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