研究概要 |
細胞内情報伝達系において重要な役割を果たしているプロテインホスファターゼは、その基質特異性からセリン/スレオニン型とチロシン型に分類される。本研究では、ホスフォセリン/スレオニンとホスフォチロシンの両方を脱リン酸化するデュアルプロテインホスファターゼVHRを調整し、阻害剤探索のバイオアッセイに用いた。またホスフォチロシン特異的ホスファターゼとして、白血球共通抗原CD45をヒト白血病細胞より調製した。ホスフォチロシン,p-Npp(p-nitrophenylphosphate),[32P-セリン/スレオニン]ヒストンH1(cdc2キナーゼでリン酸化)の3種類を基質として用い、酵素と基質の組み合わせによって、微生物由来の阻害剤をチロシンホスファターゼ阻害物質かセリン/スレオニンホスファターゼ阻害物質か判別可能になった。スクリーニングの結果、放線菌88-682株にVHR阻害活性が認められたので阻害物質を精製した。菌体のメタノール抽出物をシリカゲルカラムクロマト、LH-20カラムクロマト、ODSカラムを用いたHPLC分取によって精製し、純粋なRK-682を単離した。テトロン酸に長鎖アルキルを有する物質であった。本化合物は、VHRプロテインホスファターゼをIC_<50>2.0μMで阻害し、ヒト白血病細胞由来のCD45のチロシンホスファターゼもIC_<50>54μMで阻害した。各種動物細胞の細胞周期に対する効果をパナジウム酸と比較検討した結果、RK-682の作用スペクトルはバナジウム酸とは異なり、ホスファターゼの生物学的意義を検討する道具として有効であることが示された。
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