研究概要 |
ラット大脳皮質より調製したシナプス表面膜ベシクルを、人工脂質平面膜に再構成することにより,シナプス表面膜に存在する陰イオン選択性チャネルの電気生理学的解析を行った。その結果、シナプス表面膜には、単一チャネルコンダクタンスが約50pSの比較的選択性の低い陰イオンチャネルが存在することが分かった。チャネルの開確率は比較的高く、膜電位には依存しない。開時間及び閉時間分布の解析より、このチャネルは少なくとも2つの開状態と2つの閉状態を持っていることが分かった。塩化コリン及び塩化ナトリウム溶液中での測定結果より、陰イオンと陽イオンの透過比は、P_<cl>/P_<choline>=P_<cl>/P_<na>=1.7であった。また、このチャネルは、陰イオンチャネルの阻害剤として一般に知られているSITS、EA、IAA、NPPBによって阻害されることが分かった。チャネルと一対一で結合すると仮定したとき、これらの薬剤の結合定数(K_d)は、μMから数十μM程度であった。さらに、このチャネルは細胞内側のATPによって阻害されることを発見した。バーストの解析より、ATPの効果は濃度依存的で、K_d=1.0mMであり、通常の細胞内ATPの存在下では開確率は10%以下であることが予想される。また、ATP-依存性K-チャネルの阻害剤として知られるスルホニルウレア剤(例えばグリベンクラミド)によって、このチャネルの開確率が減少することも確認した。ATP及びスルホニルウレア剤の効果は、このチャネルがATP-binding cassette(ABC)ファミリーと呼ばれる膜タンパクの族に属することを示唆している。ABCファミリーには、上記ATP-依存性K-チャネルのサブユニットと思われる膜タンパク(SUR)の他に、嚢胞性繊維症と呼ばれる疾患に関与するcystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)も属しており、これらとの関連からも興味深い。
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