研究概要 |
高精度主鎖内部回転角解析:C5′位のメチレンプロトンを立体特異的に重水素標識したヌクレオチドに対して高精度のβ,ε内部回転角情報を解析する手法を開発した。dual CT-HSQC spin echo difference spectroscopyと名付けた本手法を用いることで、従来は解析ができなかつた、この2つの主鎖の構造情報を極めて高精度に解析する事が可能となった。本年度の段階では、12merオリゴDNA、d(CGCGAATTCGCG)_2,中のAATT部に関して、この解析を適用し、A5:ε=182.9±0.3、A6:ε=182.2±0.9等の精度での内部回転角情報の解析を可能とした。また、このような解析の結果を同じオリゴDNAの単結晶構造と比較した結果、ε角に関しては溶液構造と結晶構造の違いがあることが明らかとなった。 高精度主鎖糖部1H核間スピン結合定数の解析:糖部のコンフォメーション解析には1H核間のスピン結合定数に関する情報を得ることが必要であるが、従来法ではスペクトルの重なりなど実験上の困難さのためにこのような情報は正確には求められなかった。13C標識の導入によりHCCH-E.COSY型の実験が可能となったが、13Cの導入のみでは観測上の困難さは解消されても、系統誤差を完全に除けないことをLiouville方程式の厳密解を用いたシミュレーションにより示した。また、この系統誤差の解消のためには大きな誤差の原因となっているC2′位のメチレンプロトンの一方を立体選択的に重水素標識する事が極めて有効であることを示した。DNAが蛋白質と複合体を形成するなどして実効的な分子量が1万を越える場合は、C2′に重水素標識がされていない場合には数Hzの系統誤差が生じるに対して、C2′に重水素標識をした場合にはこの誤差は0.2Hz以内に押さえられることが可能であることを同様にシミュレーションにより示した。また、E.COSY型の実験とは異なる原理に基づいたスピン結合定数解析法に関しても検討し、15%均一13C標識したヌクレオチドにさらにC2′のメチレンの一方を重水素化したサンプルを用いることでH1′-H2′間のスピン結合数を例えば、A6に関しては、9.18±0.04Hzの精度で求めることができた。H3′-H4′など他のスピン結合定数の観測には更に異なる種類の重水素標識が必要であるが、その合成法に関してはすでに当研究室で確立しており、この研究の展開上に将来利用予定である。 動的構造解析:本年度の主な目的は、動的構造を議論するために必要な精密な構造情報を得るためのNMR手法開発であったが、上記の様に目的は達成された。この手法により高精度の構造情報の集積が可能となったため、今後はこの手法を展開させると同時に具体的な動的構造解析に進む予定である。
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