研究概要 |
(1)a.ATPアナログ2-[(4-trifluoro-methyl-2-nitrophenyl)amino]ethyl triphosphate(TFNTP)を用いて形成させたミオシン/TFNDP/AIF_4BeFn or Vi複合体の^<19>F-NMRスペクトルの化学シフトはそれぞれわずかであるが、異なっていた。TFNDPに非常に近い性質を持つ光架橋性のMant-2-N_3-ATPを用いた各複合体の光親和標識の実験結果は、各複合体においてプロテアーゼ消化によって得られる同じペプチドに架橋することが示されたので、活性部位において大きなコンホメーションの差はないと思われる。しかしTFNDPの^<19>F-NMRスペクトルはアミノ酸レベルでの小さな変化をとらえていることが示唆された。 b.フッ素で標識した平滑筋ミオシン制御軽鎖のmutant(F22W)を遺伝子操作を用いて直接フッ素標識して^<19>F-NMRの測定を行なった。標識された制御鎖のスペクトルはフリーのものと異なる化学シフトを示し、特異的に標識された部位の構造をモニターできることが示唆された。またnativeミオシンと効率良くexchangeすることができた。今後、このミオシンを用いて複合体を形成させて^<19>F-NMRを測定する予定である。 (2)ミオシン/ADP/AIF_4(BeFn,Vi)複合体を形成するミオシン頭部,Subfragment-1(S-1)の全体的な構造を調べるために、X線小角散乱法を用いて各複合体におけるS-1分子の慣性半径を小角領域のギニエプロット(散乱曲線を、強度の対数を縦軸に散乱ベクトルの大きさの二乗を横軸にプロットしたもの)の勾配から求めた。各複合体ともATPが結合したときと同程度の構造変化を起こしており、ミオシン頭部で折れ曲がりを示すような構造をすることが示唆された。また活性システイン残基Cys707(SH1)が存在する部位での、局所的な構造変化を調べるために、あらかじめ蛍光試薬ABDFで標識したミオシンを調製して、ADPと各リン酸アナグロを加えて各複合体形成に伴う構造変化を調べた。いずれの複合体においても同程度の構造変化を示していることが示された。各複合体はATPが結合したとき、遷移状態形成に近い構造変化をミオシン頭部全体及びSH1領域で起こしていることが示された。しかしながら、活性リジン(Lys83)の反応性はそれぞれ異なっていることから、これらの複合体は収縮サイクルにおいて遷移状態付近に類似しているが、わずかにずれたステップを示していると考えられる。
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