生命システムの形態は、環境変化に対して適応的に形成される必要がある。しかし従来の形態形成理論は、固定された拘束条件(境界条件)下での一定のパターン形成しか扱えないという本質的な問題点があった。そこで本研究課題では、真性粘菌の走化性をモデル系として、情報的に開かれたシステムにおける環境適応的なパターン形成の原理を明らかにすることを試みた。作業仮説としては、上記の実験的知見に基づき、自己組織系の拘束条件を自己創出できる「自己言及システム」としての情報構造を考えた。 具体的には、細胞内Ca2+リズムの相互引き込みを通して位相パターンを生成する自己組織系と、そのリズムの結合構造を規定する形態パターンとしての拘束条件の間での、相互関係の時間発展に注目した。そのため粘菌変形体に特徴的な扇型の形態パターンが発展的に形成されるプロセスにおいて、細胞内リズムの時空間ダイナミックスと形態パターンの間での経時的かつ循環的関係を画像処理的に計測した。特に、粘菌が環境からの刺激に基づいてその扇型のパターンを再構築するプロセスを観察した。 これらの結果を、細胞内リズムの相互引き込みによる位相パターン生成とそれらリズムの結合構造としての形態パターンの間での自己言及ダイナミックスとして解析した。これらによって、リズムの相互引き込みを通して生成するコヒーレント状態とそれに基づいて生成する拘束条件の間での自己言及ダイナミックスとしての環境適応的形態パターン生成のメカニズムが明らかにされた。特に、細胞内リズムの相互引き込みを通して環境依存的位相パターンが生成され、その位相関係が制御情報となり環境適応的に新たな形態パターンを生成し、それが新たな拘束条件として次の位相パターン形成に働きかける自己言及プロセスの存在が示された。
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