私は平成6、7年度重点領域研究(動的蛋白結晶解析)および平成6年度奨励研究(A)の科研費交付を受け、落射蛍光型多目的顕微鏡を改造した蛋白質結晶の可視紫外吸収スペクトル測定装置の製作を行なった。この装置を用いることにより50×50×50ミクロン程度の大きさの結晶の可視紫外吸収スペクトルを顕微鏡下で測定することが可能であり、またスペクトルを時間分割測定する場合には最高1ミリ秒の時間分割能で波長幅138nmにわたる想定ができることを確認した。そこで本申請では上記のスペクトル測定装置を利用して、結晶のスペクトル測定に適した結晶マウント用多目的試料セルの開発を行った。 従来蛋白質の結晶構造解析には直径0.5-2ミリ程度の円形の断面を持つキャピラリーが利用されてきたが、このようなキャピラリーを吸収スペクトル測定に用いようとした場合、光の散乱によってスペクトル形状がひずむ、結晶のアライメントが困難などの問題点があった。そこで私は一辺が1ミリ程度の正方形の断面を持つキャピラリーを使用することにより、光の散乱やアライメントの問題を避けることができ、蛋白質結晶のより定量的なスペクトル測定が可能になった。しかし現状では、この角型キャピラリーの材質はガラスであり紫外部の光を透過しないため、紫外部にしか吸収を持たないタンパク質のスペクトル測定には利用できないという欠点がある。今年度は予算の関係で、ガラス製の角型キャピラリーしか製作できなかったが、次年度以降は合成石英を利用した角型キャピラリーの製作を予定している。 また基質のフローを行なうためにキャピラリーにチューブおよびポンプの接続を行なうことを試みた。フロー実験時に結晶試料が動かないように固定する方法が必要であり、固定方法としてゲル濾過用のゲルを結晶の周りに詰める、試料セルのテ-パ-を使って固定するなどの方法を試してみたが、いまだに結晶の動きを確実に止める手段はなく、この件については今後も検討を要する。 上記の試料セル製作に消耗品質を充てた。また励起用レーザーは現有機器であるContinuum社製Nd:YAGレーザーを使用したが、レーザー光を試料部まで導くための光学部品(多層膜ミラー、プリズム等)の購入にも消耗品質を充てた。
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