本研究では、多くの生体内情報伝達反応系で機能している、受容体-三量体G蛋白質間の分子認識機構を構造的に明らかにすることを目的としている。具体的には、網膜内視細胞に存在するロドプシン(活性中間体)-トランスデューシン(αβγ)の結合状態での三次元結晶化・X線構造解析を行うための精製・安定化の条件検索を行ってきた。その際に、脂質環境を極力保持するために、バクテリオロドプシンで見い出された球殻状多面体構造の応用を試みることも含めて研究を行い、現在までに以下のような成果が得られている。1)視細胞円盤膜上に存在するほぼ全てのロドプシンに対して光依存的にトランスデューシンを結合させた試料から、どの成分も失うことなく可溶化する条件が得られた。この条件下では、円盤膜にわずかに存在する不純物は可溶化されないことから、複合体として非常に純度の高いものが得られることがわかった。2)上記の試料における各成分の結合状態を評価したところ、トランスデューシンのαサブユニットのみが非常に高分子量の成分として分離されやすいことが明らかになった。このことは、円盤膜上での実際の結合形態を反映している可能性があり、非常に興味深いと思われる。またこのことを利用して、ロドプシン-βγサブユニット複合体の大量精製をより簡便に行うことが可能となった。3)バクテリオロドプシンの球殻構造を作成するために最適な界面活性剤、pH、温度設定に非常に近い条件化において、円盤膜からのロドプシンの選択的な可溶化が起こることが明らかになった。この方法により、高精度の精製ロドプシン試料が非常に容易に得られるようになり、結晶化の条件検索効率が大幅に向上した。
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