bHLH型DNA結合転写因子の選択的ダイマー形成の分子機構を理解することを目的に、筋細胞の系譜を決定するbHLH蛋白質(MyoD)とそのパートナーbHLH蛋白質(E12)とのダイマー形成の研究を進めてきた。本研究では、E12にその存在が示唆されたダイマー形成阻害ドメインを同定し、選択的ダイマー形成における阻害ドメインの機能を、主に蛋白質に部位特異的にアミノ酸変異を導入して解析する方法を用いて明らかにした。E12のダイマー形成阻害ドメインはDNA結合ドメインのすぐアミノ末端側に同定された。このドメインは15残基と比較的短く酸性アミノ酸に富む配列を持っていた。さらにHLHドメインの特定のアミノ酸変異がこの阻害ドメインの機能を無効にすることを発見した。この変異は塩基性アミノ酸を酸性アミノ酸に置換することから、ダイマー形成阻害ドメインは静電気的な相互作用を利用して作用していることが示唆された。E12と特異的にダイマーを形成するMyoDのHLHドメインのアミノ酸配列を調べると、その位置には確かに酸性アミノ酸があり、さらにほかのE12と結合するHLH蛋白質でも保存されていた。このアミノ酸をE12と同様に塩基性に置換させたMyoDはE12と結合できなかった。したがって、E12はダイマー形成阻害ドメインを特異的に阻止することのできるHLH蛋白質とのみダイマーを形成し、選択的ダイマー形成を行っていることが明らかになった。このようなダイマー形成阻害ドメインの発見ははじめてであり、多くの研究者から関心が寄せられ、さまざまな提案がなされた。その一つには、DNAに結合していないE12のbHLHドメインの高次構造はダイマー形成阻害ドメインが機能するために、DNAに結合したbHLHドメインの構造とは大きくことなることが提案された。DNA結合にともなう大きな蛋白質の構造変化が予想されるのである。今後この方面に研究を発展させる計画である。
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