線虫C.elegansは、雌雄同体の302個の細胞からなる神経回路の全構造が電子顕微鏡により決定され、また発生過程における全細胞系譜も明らかになっているほか遺伝学的解析も可能である。このため、神経系に関する問題を解くための優れたモデル動物であると考えられる。我々は、C.elegansの介在神経の機能を明らかにするために、介在神経の形態に異常を示す変異体を単離・解析することを目的として研究をすすめている。 本年度は、ゲノムプロジェクトによって同定されたグリシン・グルタミン酸などの神経情報伝達物質受容体遺伝子に着目して研究を行った。これらの遺伝子のプロモーターの下流にクラゲのGreen Fluorescent Protein(GFP)のcDNAをつなぎ線虫に導入し、神経細胞に特異的なマーカーを作製した。形質転換した線虫でGFPが発現している細胞を同定したところ、これらのマーカーのうち6種類では介在神経での発現が観察された。次に、これらのマーカー遺伝子を染色体へ挿入した形質転換体を作製した。一方、これらプロモーターの下流に、発現すると細胞が変性して死ぬmec-4(d)遺伝子(変異したNa^+チャンネルをコード)を挿入し、介在神経を破壊し、これらの介在神経の機能を明らかにすることを試みた。その結果、少なくとも数種類の介在神経の細胞が死んでいることが確認されたが、mec-4(d)遺伝子が発現しても死なない細胞があることがわかった。これは、それらの細胞での発現が十分でないことや細胞が死ぬためには他の遺伝子の機能が必要であることなどが考えられた。これらの受容体遺伝子が発現している介在神経の機能を明らかにするために、これらの遺伝子にトランスポゾンが挿入した変異体の分離を試み、4種類の遺伝子について変異体を得ることができた。今後は、これらの変異体の行動における表現型を解析し、その行動を指標にして介在神経の形態異常を示す変異体を探索していきたい。
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