GPIアンカー型の細胞接着分子では、カドヘリンなどトランスメンブレン型細胞接着分子で知られるような(カドヘリン-カテニン系に見られる)、細胞骨格系へと繋がる、細胞質側の機能制御蛋白質群についての情報はほとんどない。神経特異的、かつ出生後発現が見られるGPIアンカー膜結合型のコンタクチン(F3/F11)細胞接着分子についての我々の解析では、細胞骨格からの制御を受けて局在を限局していることが示唆されていた。そこで、本研究ではこのコンタクチン分子の細胞質側制御分子、細胞膜裏打ち構造について解析を行った。我々はかつてのアンチセンス法による実験から、コンタクチン分子もERM(エズリン、ラディキシン、モエシン)ファミリーというアクチン系細胞膜裏打ち分子の制御を受けている可能性を考えていた。実際、コンタクチン発現細胞でERMファミリーのアンチセンスによる発現抑制をおこなうと、コンタクチン分子の局在が変化した。つまり、GPIアンカー型コンタクチン分子もERMファミリーを介して細胞骨格系アクチンに繋がり、制御されていることが解った。ERMファミリーは細胞膜裏打ち分子であるので、膜にGPIアンカーで結合するコンタクチン分子には、さらにその間に介在する細胞膜内在性分子があるに違いない。ERM分子を(アンチセンスによって)発現抑制し、コンタクチンの局在が変化する際に挙動をともにする分子が存在すれば、その膜内在性のコンタクチン制御分子である可能性が高いと考え、そのような分子の検索を行った。その結果、IL-6レセプターの情報伝達分子でもあるGP130が、候補に上がり、さらに免疫沈降法などの結合実験から、この分子がコンタクチンの膜側制御分子として結合していることが明らかとなった。つまり、コンタクチン分子は細胞骨格系とその裏打ち分子による制御を受けるとともに、情報伝達分子として、会合するGP130を介して細胞内に情報を伝える可能性が大きく示唆される。細胞接着分子、それもGPIアンカー型分子の情報伝達機構としては初めての知見である。今後、これら接着分子のさらなる情報伝達機構と制御機構を明らかにして、発生過程における役割を明らかにして行きたい。
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