ステロイドホルモン合成酵素の遺伝子の転写因子として発見されたAd4BP(別名SF-1)の発現を、ラットの成体および発生過程において詳しく調べた。又、同時に卵黄嚢基部に由来し、発生過程で生殖腺に移動してくる始原生殖細胞の移動経路を調べ、Ad4BP発現細胞との関係を調べたところ、以下のことが明らかになった。 (1)副腎、精巣、卵巣の全てのステロイドホルモン産生細胞にAd4BPの発現を認めた。 (2)生殖腺では形態的に雄雌の未分化な時期までは、その発現量に性差はないが、精巣、卵巣への性分化直後から胎児期を通じて、精巣において高く、卵巣において低いこと、 (3)これは生後、一週齢の頃から逆転し始め、成獣では胎児の時期とは逆に、卵巣で高く、精巣で低くなることを明らかにした。 (4)予想外にステロイド産生の知られていない胎児セルトリ細胞にAd4BPの発現が認められた。又、胎児期および出生後を通じて、この発現パターンは、未分化生殖器官の性分化に重要なミュラー管阻害因子(MIS)の発現パターンに良く似ていた。 (5)MISの遺伝子の遺伝子上流にAd4BPの共通結合配列が、動物種間を通じて、保存されていること、及び、Ad4BPは実際にこの結合配列に結合することを見いだした。以上のことより、Ad4BPはミュラー管阻害因子の転写調節に関与することが明らかになった。 (6)更に、特に発現開始時に注目し調べ、驚いたことに副腎皮質と生殖腺の原基は、新奇なプロファイルをもった全く同一の共通原基より分化してくることを明らかにした。 (7)この共通原基の分化過程において、始原生殖細胞は将来、副腎となる部位と、生殖腺になる部位を区別できないことを含め、始原生殖細胞の移動経路と共通原基との間の特異な諸関係を明らかにした。
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