HPC-1/syntaxin 1Aは、シナプス小胞のシナプス前膜への融合過程への関与が指摘されているが、細胞内での本来の機能については明らかではない。そこでまず、これに特異的なモノクローナル抗体を作製した。幸運なことにsyntaxin 1Bを認識しない特異性の極めて高い抗体が得られた。これを用いてラット海馬でのHPC-1/syntaxin 1Aの分布を調べた結果、ポリクローナル抗体での結果と同様に軸索全体が陽性であった。脳内での発現量としてHPC-1/syntaxin 1Aはこれまで胎児脳はほとんどないと思われていたが、本抗体による検討の結果、出生以前から存在し発生に伴って増加することが示された。また、この抗体を用いて脳から精製されたHPC-1/syntaxin 1Aは、セリン残基がリン酸化されていたが、チロシンとスレオニンはリン酸化されていなかった。これらの結果からHPC-1/syntaxin 1Aはプレシナプス末端以外でも機能していると考えられた。そこで、HPC-1/syntaxin 1AのアンチセンスDNAをトランスフェクトしたPC12h細胞を作製しその形態の変化を調べた。複数得られたクローン全てが親株と異なり、偏平で大型化し、その内部には大きな液胞状のものが見られ、チューブリンの細胞内分布が発達していた。また、電子顕微鏡で観察するとシナプス小胞様のものがほとんど見られない。また、L型カルシウムチャネルによるカルシウム流入が見られなくなっていた。以上の結果から、HPC-1/syntaxin 1Aが細胞骨格蛋白質やL型カルシウムチャネルと相互作用して細胞の形態形成および細胞内情報伝達を制御しており、その機能はリン酸化によって調節されている可能性が考えられた。今後、これらに関する生化学的な機構を解明することがHPC-1/syntaxin 1Aの機能を明らかにする上で重要であると考えられる。
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