研究概要 |
多様な高次機能を有する“脳"を知るためにはその配線様式すなわち神経回路網形成のメカニズムを解明することが必要である。神経回路網形成には神経細胞膜表面に発現する細胞認識・接着分子が重要な役割を果たしている。申請者はこまでに“脳"の構築を規定するような新規細胞認識分子の探索を試み、特にmultigene familyを形成し複雑な神経回路網形成に必要な多様性を分子内につくりうる免疫グロブリン・スーパーファミリー(IgSF)に注目して研究を行ってきた。当該年度においては、神経系IgSFメンバーのうち特に軸索に特異的に発現する分子群(AxCAMs)の神経回路網形成における役割を解析した。 1.新規IgSF AxCAMであるBIG-2の発見および構造・機能解析 既知のIgSF AxCAMであるTAG-1およびF3のアミノ酸配列を基にしたRT-PCR法によって、新規分子BIG-1とBIG-2を発見した(BIG-1については前年度に報告)。本年度はBIG-2の全構造を決定し、その機能解析を行った。BIG-2はTAG-1, F3, BIG-1と同様にGPIアンカー型の膜結合蛋白質で、その細胞外領域には6つのIg様ドメインと4つのfibronectin type III様ドメインを有する。BIG-2はBIG-1と最も相同性が高く、アミノ酸レベルで65%の同一性を示す。また精製コンビナントBIG-2蛋白質上で神経細胞を培養すると神経突起の伸長が促進された。 2.神経系の各発達段階における7種のIgSF AxCAMsの発現分布の解析 7種のIgSF AxCAMs(BIG-1,BIG-2,TAG-1,F3,L1,Nr-CAM,neurofascin)の発現をin situ hybridezation法によって詳細に解析した。これら7種のAxCAMsは発達段階の様々な時期において異なった発現パターンを示し、それぞれの分子が異なった神経回路網の形成・維持および可塑性における関与する可能性が示唆された。例えば胎生15日のラット延髄において、BIG-1,BIG-2,TAG-1は異なった運動ニューロンに発現していた。また、成体の海馬においてもBIG-1,BIG-2,TAG-1,F3の異なった発現パターンが観察された。
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