哺乳動物中枢神経の損傷からの再生について、ラット脊髄-小脳路を用いた実験を行った.生後1週間までの幼弱なラット脊髄を鋭利なナイフで切断し、切断部を通って上行する神経軸索を順行性に標識して再生線維の走行を追った.また、切断部近傍のastrocyteとmicrogliaを免疫組織化学的に標識してその分布・形態変化を見た.その結果として、1.切断後3-5日の時点で、切断された神経軸索は切断部を乗り越えて再生を始めているものがあり、その先端には成長円錐が観察された.同時に、切断部より後退している軸索もみられ、それらは先端が球状に膨らんでいた.2.1の時点では(1)reactive astrocyteが切断部を中心にして増殖し、既にgliosisが生じていた.(2)microgliaが周辺かなり広い範囲に多く現れていた.3.1カ月以上たった時点で、再生した脊髄-小脳投射は正常と同じように小脳のanterior lobeとlobule VIIIに終止した.4.特に良く再生した例ではその行動は正常と区別出来ないほど機能回復していた. 以上の結果からastrocyteとmicrogliaが再生へ及ぼす影響は判定し難いが、少なくとも決定的な抑制因子ではないことは分る.以前から再生の報告のあった小脳出力路や皮質-脊髄路に加え、脊髄上行路も再生を示したことは、再生現象が中枢神経の特定の経路だけに限らない可能性を示すものである.
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