研究概要 |
海馬体とその周囲皮質の空間認知・記憶に関する神経機構を調べるため,行動中または麻酔下のサル海馬体と周囲皮質からニューロン活動を記録し解析した。 サルの居場所と刺激物体の組合せにより行動が規定される場所依存性Go/Nogo課題遂行中のサルの海馬体と周囲皮質から,329個のニューロンを記録した。このうち88個が課題の物体呈示期に応答し,(1)非識別ニューロン(43個の,4種類のすべての場所‐物体‐反応の組合せに対して非識別的に応答),(2)反応識別ニューロン(16個,物体の意味するGoまたはNogo反応に対しては識別的に,場所呈示期には非識別的に応答),(3)物体識別ニューロン(12個,赤色または青色物体には識別的に応答するが,場所呈示期には無応答)および(4)特定組合せニューロン(17個,4種類の場所‐物体‐反応の組合せのうち特定の1つの組合せに識別的に応答)の4型に大別できた。 サルの海馬体周囲皮質から,超慢性記録用ワイヤー電極により複数のニューロン活動を同時記録し,各ニューロンの発火時系列間の関係を相互相関解析により調べた。その結果,(1)同じ電極から記録されたニューロン間では,共通入力の示唆されるニューロンの組合せ(ニューロン対)があったが,異なる電極から記録されたニューロン間では,このようなニューロン対は現時点まで得られていない。(2)直接結合の示唆されるニューロン対は現時点まで得られていない。 本研究により,1.サルの海馬体と周囲皮質が,居場所の認知や居場所‐物体‐行動などの事象間の複雑な連合の認知・記憶過程に重要な役割を果たすこと,2.サルの海馬体周囲皮質では,比較的近傍にあるニューロン間で共通入力を受けるなどの知見が得られた。
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