ICGNマウスは、ネフローゼ症候群を自然発症するマウスで、末期には重度の糸球体硬化症に陥る。糸球体硬化は、細胞外マトリックス(ECM)の蓄積により引き起こされる。ECMの生産にはTGF-βやPDGF等の成長因子が、ECMの分解作用にはMMPとTIMPが深く関与しており、一般にこの生産と分解のバランスが崩れると、ECMの蓄積が誘導され、糸球体硬化に陥ると考えられている。本研究ではECMの主要成分であるIV型コラーゲンとTGF-β、PDGF、MMP、TIMPの遺伝子発現を解析し、ICGNマウスにおけるECMの蓄積機序を分子遺伝学的に明らかにすることを目的としている。 ICGNマウスのネフローゼ症候群発症の有無は常染色体上の劣性遺伝子(nep)によって支配されており、当研究室ではnep遺伝子ホモの雄とヘテロの雌の交配により系統を維持している。そこでホモの個体とヘテロの個体より、マイクロディセクション法(Sand et al.1989)により腎糸球体を単離し、糸球体局所での各遺伝子の発現を比較した。実験法は、平成6年度奨励研究(A)の助成により当研究室の助手らが確立した方法に従い、30個の糸球体から全RNAを抽出しRT-PCRを実施後、デンシトメトリーにより定量した。その結果、糸球体硬化が著明となる6週齢のホモの個体ではヘテロの個体に較べIV型コラーゲンα鎖のmRNA量がほぼ2倍となっており、IV型コラーゲンが過剰に発現していることが明らかとなった。一方、TGF-β、PDGF、MMP、TIMPの遺伝子に関しては糸球体局所での発現は確認できたが、その量は極めて微量であり、30個の糸球体から全RNAを抽出する上記の実験系では正確な定量ができなかった。現在、これらの遺伝子の発現を定量する実験系を検討中である。
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