本研究は、健常者或いは心疾患患者のための総合的な心肺機能予備能力計測・評価システムの開発を行った。本システムは、フローメーター・呼気ガス分析器、ICG(胸部インピーダンス)、心電図、血圧計、超音波ドップラー血流計(申請設備備品)の装置からなる。無侵襲連続計測される呼吸循環(換気量、酸素摂取量、二酸化炭素排泄量、心拍数、心拍出量、血圧、血流速度)動態は、パソコンによりオンラインで処理される。漸増負荷運動では、嫌気的閥値(AT)は健常者に比べ心疾患患者では有意に低い。各測定パラメータの過渡応答特性を、一次の指数関数モデルで定量化した際、心疾患患者の循環系の動特性は健常者に比べ遅くなる。その動特性の遅れは、運動開始時・終了時共に心拍数によることが示された。ステップ負荷運動後の大腿動脈の血流速度は、リストリカバリーに比べ40%ATの整理運動で高く、心拍出量の増加の原因となるSVの増加はマッスルポンプによることが示唆された。また、自発的な筋張力の発生を伴わない受動的な足の運動では、筋血流・心拍出量の増加は認められずマッスルポンプの作用が得られないことから、筋繊維の萎縮(心疾患による運動不足時)によってマッスルポンプの機能を十分に引き出せないことが予測される。40%ATの整理運動後の心拍数は、レストリカバリーに比べ有意な減少を示し、運動後の心拍出量・筋血流の維持が循環系の回復に重要な役割を果たす。以上より、本研究によって開発されたシステムは、運動負荷試験時の呼吸循環系諸指標の過渡応答特性を定量的に示し、従来の定常状態の情報に加え過渡状態の情報を提供すると共に、呼吸と循環の相互関係に関する情報を提供する。また、運動時の心拍出量(ICG)・血流速度計を備えた本システムは、運動時のリスクの有無を示唆する予防医学上の情報を提供するだけではなく、心肺機能の評価と診断に重要な情報を提供するものである。
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