研究概要 |
本研究の目的は、日本の中学2年生の証明観が,数学の相対的な真理観に基づく証明教材の指導によって,どのように変容するかを記述することである。この目的は次の目標からなる。 目標a:数学の相対的な真理観に基づく証明教材を開発するための理論的整備を行う。 目標b:数学の相対的な真理観に基づく証明教材を開発する。 目標c:中学2年生の小集団に対して,開発した教材を指導し,自然観察法によりデータを収集する。 目標d:社会学的/心理学的手法によりデータを分析し,中学2年生の証明観の変容を記述する。 目標aの達成に関して,以下の4点を考察した。 a-1:数学の相対的な真理観の背景と意義 a-2:我が国の中学校数学におけるカリキュラムの変遷 a-3:平成元年学習指導要領準拠の中学校第2学年数学用教科書における証明の導入 a-4:教科書に準じる証明指導によって育成され得る,ことがらの真理観 特に,考察a-3については,次の知見が得られた(平成8年日本科学教育学会年会で公開):「我が国の中学校数学の教科書において,証明の定義における根拠の規定と,根拠の集まりとは相互に一貫していない,あるいは,一貫性の有無が不明である.相互一貫性の欠如の一因として,同一のことがらに対して正しさに関する異なる基準(子どもの知り得る事実との対応/何らかの前提からの演繹)が中学校第2学年の図形領域とそれ以前とで使い分けられていることがある.そして,この使い分けは,証明の機能として,ことがらの正しさやそのわけの明示だけでなく,既習のことがらをも演繹される対象として,ことがらの局所的な体系化が用いられていることによる.」。また,考察a-4については,次の知見が得られた(平成8年日本数学教育学会論文発表会で公開):「教科書に準じる証明指導によって,ことがらの正しさの規準に関して,次のような考え方が育成され得る。/ことがらの正しさの規準は次の二つであり,二つの規準をことがらに応じていかに使い分けるかは自分と無関係に予め定められている。規準a:ことがらが自分の知り得る事実と対応する。規準b:予め定められた区別にしたがって前提が用いられて,ことがらが演繹されている。」。 なお,目標aの達成に予想以上の労力と時間を要したため,他の目標については平成9年度以降にその達成を目指す予定である。
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