当研究の目的は、80年代アメリカ演劇における演劇思想の全体像を明らかにすることにあった。ほぼ予定通りに研究は進み、1)「イメージの演劇」が80年代においてどのように終焉を迎えたのか、2)フェミニスト・パフォーマンスとフェミニズム理論の複雑な関係とそこでの政治性/身体性の問題の分析という、当初の二つの主題に沿って、資料を収集することができた。現在、収集した資料を整理中の段階であるが、当初の予想通り、80年代アメリカにおける政治的社会的保守化という文脈とアカデミーにおけるラディカルな理論の急速な発展という文脈が複雑に絡み合い、そのこととの関係性において「イメージの演劇」がヨーロッパに輸出されることで国内的な挫折を迎え、そのかわりに、より政治的で芸術的な価値を問わないさまざまなパフォーマンスの形態が登場してきたことがほぼ資料的に裏付けられたと考えられる。一方、フェミニスト・パフォーマンスについては、この文脈で考えられることもかなりあるものの、むしろ60年代の西海岸におけるさまざまないわゆるパフォーマンス・アート(ハプニングなど)との理論的な継続性が色濃いことがその資料からうかがわれ、今後の課題としては、ニューヨークを中心とする80年代パフォーマンスをより射程の長い歴史的視座とより広い地理的視座からから捉え直すことが要請される。 当研究の成果は、一つにはこの時代の思想的問題を集約的にあつかったトニ-・クシュナーの『エンジェル・イン・アメリカ』という戯曲の分析というやや迂回した形ではあるが論文として96年3月発行予定の論文集(共著)に収録され、また、より広い問題意識から、日本の80年代演劇の問題を論じた小論も雑誌に発表した。
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