研究概要 |
生成文法理論をもちいて、日英語の否定表現について、言語学的失語症学の立場から対照研究を行うことを目的とした。今年度は研究対象項目を否定表現に絞り、文法障害をもつ失語症患者(特に失文法患者)に対して、調査・実験を行った。英語の否定表現については、Ladusaw 1983,Linebarger 1987,1992を検討した結果、一般には、複文における否定対極表現の文容認性判断は困難であることが分かった。一方、日本語では、その構造上の理由から、複文における否定対極表現は不可能であることから、単文を用いて実験を行った。結果は、同一節内での否定対極表現と否定辞との照合についての文容認性判断は、良好であることが分かった。この結果は、Hagiwara(1995)(平成6年度科研費による成果)で提案された「経済性の仮説」(失文法失語の言語では、文構築に関与する合併という操作の数が少なければ少ない構造ほど保持されやすい)を支持するものであった。つまり、英語における否定表現の困難さは、合併という操作の数が多い大きい構造をもつ複文だからであり、日本語で良好な原因は、合併の数の少ない単文であることに起因すると考えられる。
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