多層ラメラ構造をもつリン脂質膜は、炭化水素鎖のみから成るポリエチレンやパラフィンでは見ることの出来ない転移を有する。例えば、sub-転移は両親媒性分子であるリン脂質膜に特有と言える。本研究で、このsub-転移が加圧下で特異な振る舞いを示すこと、また、ヘッドグループがこれに関与することを実験的に新たに検証することが出来た。以下、主な結果を示す。 (1)約250MPa以上の加圧下で、リン脂質膜のメルテイング温度まで一度加熱する(高圧メルテイリング条件)と長期冷却保存(常圧下では、0℃で72時間以上でsub-転移が出現する)無しでsub-転移が出現する。但し、約250MPa以下の加圧下では、この高圧メルテイング条件を満たしても転移は出現しない。 (2)高圧メルテイング条件を満たした場合、main、pre転移から数えて第3番目と4番目の転移が出現する。これら2つの転移は、常圧下でのsub-転移が加圧効果で分離出現したものである。 (3)リン脂質の炭化水素鎖充填形態に着目すると、これら2つの転移近傍で低温側から順に、L_C(斜方晶形)-->>(4tH転移)->>L_<C′>(擬斜方晶形態)->>(3rd転移)-->>一時的に側鎖方向が開放された状態-->>L_<β′>(擬六方晶形態)と変化することをWAXS(広角X線回折)実験結果から解釈できた。 (4)常圧下でのRaman散乱実験から、sub-転移がヘッドグループに関与していることを指摘出来た。sub-転移前後で、ヘッドグループのO-P-O、acyl linkage C-C、また、O-H水分子振動に変化を観測することが出来た。ヘッドグループ以外での炭化水素鎖部分でもRaman振動で顕著な変化を指摘出来た。 (5)本研究課題の科研費決定が'95年12月であった為、このRaman実験に関係する低温実験装置導入や実験・解析が大幅に遅れたが、現在、更に解析中であり、かつ、論文投稿中及び準備中である。リン脂質のヘッドグループが構造相転移現象で果たす役割について、構造的かつ分子振動的な観点から実験研究を推し進める更なる必要性を本研究を通じて痛感する。今後、この領域の展開を多いに発展させなければならない。以上
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