研究概要 |
機械工学と生物学の境界領域を研究対象としているバイオメカニクス,生物機械工学,生体医用工学などは生物の本来備えている様々な機能や機構を工学的な観点から解析究明して,それらの成果を積極的に工学技術に取り入れることによって飛躍的に発展を続けている.その様な学問体系の進展状況を鑑み,当該研究は,幾多の危機的試練にもかかわらず数億年もの長い地球の歴史を通じて生き延び進化を続けてきた飛行する昆虫の航空工学的な特性を系統的に解明し,それらの成果を機械工学に応用しようとする基礎的な研究である. 平成7年度の研究においては,多くの種類の飛行昆虫に関して形態学的なパラメータの測定を行い生物飛行の多様性を明確にし,バレンシ数の導入によって昆虫飛行を整理した.また,トンボ翼をバ-テックス力学の観点から調べることによって支脈による平面分割の法則性を見いだした.風洞実験においては,トンボのはばたき変位とはばたきによる速度変動の同時計測を行い,両者の相互相関関数などを求めた. 平成8年度の研究においては,前年度の研究において明らかとなった成果に基づいて,さらに深く研究を掘り進めた.すなわち,飛行する昆虫翼の持つ形態学的および航空力学的特性を明瞭にするために,走査型電子顕微鏡による観察を行った.その結果,多くの微視的構造が新たに明らかとなった.例えば,トンボ翼の結節の不連続性,縦脈および横脈に規則的に配列する突起物の構造,翼膜表面の構造などが明瞭となった.低乱風洞実験においては,トンボのはばたきの周波数変化およびはばたき変位の制御による生成速度変動特性などが明らかとなった.さらに,ハチなどの自由飛行における高速度ビデオ観察や精密騒音計による音響測定に基づいて,無響風洞を使用したハチのまわりの流れ特性などを明らかにした.
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