研究概要 |
生物細胞の凍結保存では、凍結・融解後の生存性向上のために、実用上、凍結保護物質の添加が必要である。一方、低冷却速度での細胞の損傷原因としては、電解質の濃縮や氷結晶が細胞に及ぼす機械的作用が挙げられるが、損傷機構や凍結保護物質の保護機構の解明の問題、および、凍結保存技術の確立と将来的発展のためには工学的観点からの基礎研究が必要である。この背景において、マクロな生体材料である細胞懸濁液の凍結過程における細胞を含めた細胞まわりの未凍結水溶液や氷の状態などのミクロ構造を工学的手法により解明することが重要であるとの考えの下に、人間の赤血球懸濁液の方向性凝固過程のミクロ構造[1)氷結晶の形態特性、2)氷結晶と細胞の相互作用の特性]に対する代表的な細胞膜透過型凍結保護物質であるグリセロールの添加濃度(生理食塩水に対してグリセロール濃度C=0,0.5,1.0,1.5,1.7,2.0M)影響を顕微鏡観察に基づいて調べた。さらに、ミクロ構造と凍結・融解後の細胞の生存性との関連性を検討した。 C=0Mの赤血球懸濁液では、氷結晶の形態の構造は、基本的にセル状(1次アーム)であるが、Cの増加と共に、固液界面は形態学的に不安定化し、2次、3次アームの出現など、高次化・微細化する。C=0以外では冷却速度Hの高い方が高次化・微細化しやすい。大部分の赤血球は、C=0Mの場合、成長するセル状氷結晶に押し退けられ、氷結晶間の未凍結水溶液中に集積され、互いに接触し詰め込まれると共に、一部の赤血球は伸張変形を受ける。一方、Cの増加と共に、氷結晶との相互作用による赤血球の移動や変形は無くなり、氷結晶は赤血球のまわりを赤血球を包み込むように変形しながら成長し、氷結晶と赤血球の相互作用の特性は柔軟化する。さらに、本研究の範囲内では、セル状氷結晶との機械的作用が強いと考えられる赤血球の生存性が低下することを明らかにした。
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