研究概要 |
定酸素分圧下で昇温すると格子酸素より酸素が発生する現象は、ペロブスカイト酸化物、スピネル酸化物などの各種の複合酸化物、Co,Mn,Pr,Tbなどの単独酸化物など、いくつかの事例について知られている。一方、低酸化状態の酸化物(本研究では金属は除外した)で、水を還元する能力があるのは各種の熱力学的データを用いて計算したところ、Ce,Nb,V,Ti,Fe,Snの酸化物など僅かしかない。これらの両成分を含む酸化物の複合化などにより、高温における酸素放出能と低温における水の還元能の両方を有する酸化物系を構築できれば、熱的なサイクルのみで水を分解することが可能となる。 本研究ではそのような機能を持つ酸化物を探索するために酸素脱離-水交互導入法による酸化物の適性を検討した。その結果、高温側、アルゴン気流中で酸素を放出した酸化物は、単独酸化物ではCo_3O_4,PrO_2,MnO_2であり、複合系においてはFe,Co,Mn,Pr,Agを含む系であった。一方、水/アルゴン気流中で水素の発生が観測されたのは、単独酸化物ではSn,Ce酸化物であり、複合系においては、Sn,Ce,Nb系酸化物であった。単独系の酸化物については、その挙動は熱力学的な推定から得られる結果とほぼ一致していた。これは、今後、材料探索を行う上で、重要な指針である。水を還元するサイトとしてCeが有望と考えられたので、重点的にセリウム系について検討を行った。その結果、Ag,Rh等と複合化する事によりセリウム系酸化物から酸素の脱離が見られたが、その後の水の導入によって、水素の発生は見られなかった。 本研究の狙いとするところは、無駄な副生物なしに、水素を製造するプロセスを開発することである。従って、格子酸素を、還元剤の単なる完全燃焼ではなく、有用なケミカルズの酸化的な合成に利用できるのであれば、還元剤を用いて強制的に格子酸素を反応に利用しても、なんら、プロセスの価値を損なうものではなく、酸化生成物によっては、むしろ好ましいと考えられる。ここでは、炭化水素中、最も部分酸化の困難とされるメタンを還元剤としてエチレンを合成することを試みた。熱力学データによると、通常の反応温度の範囲で、メタンからの酸化的なエチレン製造、ならびに水の還元に利用できる単独酸化物は、酸化スズと、酸化鉄しかない。後者は活性が高いものの、選択性に乏しいため、酸化スズ系の複合酸化物について検討した。その結果、K2_2NiF_4型を有するアルカリ土類金属と複合酸化物が、活性、選択性とも高いことを見い出した。さらに、調製法、添加物につき検討し、さらなる高活性化に成功した。
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