研究概要 |
岐阜大学および京都大学霊長類研究所に保管されたサル材料を病理学的に検索し,加齢性および腫瘍性病変の形態学的特徴および発生頻度につき検討した。特にニホンザルの自然発生性病変にも着目した. 加齢性病変としては,サルの大脳基底核のミネラル沈着症,老人斑,マリネスコ小体およびポリグルコサン小体など加齢性病変を調べ,それぞれがヒトの同様な病変と極めて類似することを明らかにした。循環器に関しても,心筋の変性が野生ザルを含め高頻度に認められた.腎臓では,野生ニホンザルにしばしば重度の蓚酸カルシウム沈着症がみられた.この原因としては,植物性の餌に含まれる蓚酸が関与していると推測された. サルにおける腫瘍発生に関して報告が少なく,全世界で約800例の報告があるが,国内からの報告は数例のみであった(Beniashvili : J Med Primatol 18 : 423-437, 1989)。今回の検索で,ほとんど報告のない種々のサルの腫瘍につき,病理学的特徴を明らかにした.神経系では,カニクイザルの大脳梨状葉に神経膠細胞腫,消化器系ではニホンザルの下顎にエナメル上皮歯芽腫,シロテテナガザルの盲腸に管状腺癌,ボウシラング-ルの直腸に印環細胞癌,ニホンザルの腹腔内にホジキン様リンパ腫,ワタボウシパンシェの副腎皮質に骨髄脂肪腫,大ガラゴの膵臓に内分泌細胞腺癌,ニホンザルの胸部皮膚に皮膚基底細胞腫が認められた.サルの種々の腫瘍は,形態学的にもヒトの腫瘍とよく類似し,CEAなど腫瘍マーカーも陽性を示すものが多いことから,比較腫瘍学の点からも意義深い.
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