研究概要 |
酵母,カビ,植物細胞は液胞と呼ばれその内部に多種の加水分解酵素や中間代謝物を含み,細胞の大きな体積を占めているオルガネラを有する。液胞内部には種々の生理物質の存在が認められており,さらに液胞膜にはH^+-ATPaseを介する数種のアミノ酸やCa^<2+>などの輸送系の存在が明らかにされ,貯蔵コンパートメントとしての液胞の役割が示されている.しかしながら,液胞膜を介する物質の輸送現象についてはまだ不明な点が多い。私は液胞が様々な薬剤を取込み蓄積し細胞質から隔離することによって,細胞質での薬剤濃度を低下させたり,無毒化し,解毒コンパートメント的な役割を持つ可能性を明らかにする目的で酵母の液胞の薬剤輸送及び蓄積機構の解析を行った。 研究成果 1.酵母の液胞形成欠損株が特異的に感受性が高くなるアミノグリコシド系抗生物質をスクリーニングした。 2.変異原処理した細胞からこのアミノグリコシドに対する感受性変異株を13株得た。 3.それら13株の相補性テストから、少なくとも6個の遺伝子がアミノグリコシド耐性に関与することを示した。 4.感受性株の1つの遺伝子をクローニングし構造解析を進めた結果、細胞膜上のカリウムイオン輸送体をコードする遺伝子TRK1であることが明らかになり、現在その機構について検討を進めている。 抗生物質の耐性機構は細胞膜からの抗生物質の取り込みの低下、取り込まれた抗生物質の不活性化、抗生物質の標的の変化、抗生物質の汲みだし機構の亢進などの機構が示されている。複雑な細胞内膜構造によるコンパートメントをもつ真核生物は、オルガネラが関わる新たな耐性の機構を獲得している可能性が考えられる。現在目的とする液胞構造や機能がこの抗生物質耐性に関わる直接の結果はまだ得ていないが、今後得られた変異株の解析を通じて新しい耐性機構に関する知見が得られることが期待される。
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