研究概要 |
ヌクレオバインデイン(Nuc)を正常マウスに腹腔内投与すると再現性をもって胸腺のアポトーシスと血中ヌクレオソームの出現が認められる。抗CD3抗体でも同様の所見が得られるが、Nucが共存すると血中からのクレオソームのクリアランスの延長がみられ、それがクレオソームとNucの結合によることが分かった。このことからNucによる自己免疫誘導は自己抗原の安定を高めることに因ることが示唆された。さらにNucによって誘導されるアポトーシスで胸腺細胞のヒストンH1の増加と35-40kD蛋白質のチロシンリン酸化がみられた。胸腺細胞抽出液には2次元電気泳動で等電点5.5-5.7で20-30kDの新しいスポットが検出された。これはLPSや生食液では出現せず、Nucに特異的新規物質であることから今後の検索が待たれる。本研究の中心でもあったNuc特異的なT細胞株の樹立であるが、Nucの継続投与で自己免疫が成立したBALB/cマウス脾細胞T細胞からT4,T8の二株が樹立され、いずれもCD4_+,でNuc特異的に増殖し、MHC拘束性(I-A^d)も認められた。全身性自己免疫での自己抗原特異的T細胞株は一般に樹立・維持が困難であるところから、これらの株は今後の全身性自己免疫の解明に貢献できることを期待するところである。以上の結果から全身性自己免疫の成立には以下のことが示唆される。1)Nucの代謝異常に困り血中のNucが上昇する。2)胸腺にアポトーシスを誘導し核抗原(ヌクレオソーム)を中心とする自己抗原を血中に放出する。ヌクレオソームと結合したNucは抗DNA抗体産生のためのヘルパーT細胞を誘導する。Nucの本来の生物学的作用を知り、さらに自己免疫の解明の為にNuc遺伝子のノックアウトやトランスジェニックマウスの研究が進行している。
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