研究概要 |
現在まで乳癌10例,食道癌31例,膵癌4例についてMAGE遺伝子とMHCの発現につき検討してきた.これらの症例でHLA-Alの患者はなかった.MAGE遺伝子の発現率は,乳癌でMAGE-1陽性1例(10%),MAGE-3陽性3例(30%),MAGE-1,MAGE-3とも陽性例が1例(10%)であった.食道癌患者ではMAGE-1陽性7例(23%),MAGE-3陽性14例(47%),両者とも陽性3例(10%)であった.膵癌ではMAGE-1陽性1例(25%),MAGE-3陽性2例(50%),両者とも陽性1例(25%)であった.以上の結果から,乳癌及び消化器癌においてはMAGE-3の頻度がMAGE-1に比べ高いことが明らかとなった.なお,MAGE-1蛋白の存在は抗体(久留米大学免疫学伊東恭悟教授より供与)を使用したウエスタン解析にて乳癌の1例を除き全例陽性となり,遺伝子発現と蛋白合成との整合性が証明された.これらの発現と患者の予後との関連では,MAGE-1&MAGE-3の両者の遺伝子発現が陽性の患者において有意に良好であった.HLA-A2陽性で腫瘍がMAGE-3を発現する食道癌患者では詳細な検討を行った.この患者の末梢血リンパ球はHLA-A2拘束性MAGE-3由来ペプチド(FLWGPRALV)にてパルスした培養樹状突起細胞にて刺激することにより増殖をしたが,この一方HLA-A1拘束性MAGE-1由来ペプチドで処理した樹状突起細胞で刺激したリンパ球は増殖を示さなかった.増殖をみた条件では同じくリンパ球のTNF産生が有意に高かった.上記で適当に刺激された培養リンパ球はHLA-A2&MAGE-3陽性の自己腫瘍に対する障害活性を有していたが、HLA-A24&MAGE-3陽性のアロの腫瘍に対する障害は弱かった.以上から,プロフェッショナル抗原提示細胞を利用した腫瘍抗原由来ペプチドによる能動免疫療法は臨床応用が期待できるものと考えられた.現在は,T細胞のクローニングを行い,MAGE-3由来ペプチドに反応するT細胞レセプターの同定を行っている.
|