研究概要 |
脳神経外科領域の患者を扱う際に,意識障害,痴呆例,無欲状顔貌等の表情に乏しくかつ眼球運動(眼の動き)の乏しい患者に接する機会が極めて多い。これらは直感的に判断が可能であるが,これら現症の客観的・定量的評価法の報告はこれまで見あたらない。種々のtaskによる誘発法無しで静的状態での眼球運動の定量的評価法の確立を目的とした。方法はVTR camera2台、AV mixerおよびVTR deck各1台とNeuropak 4を用いて眼電位図のフーリエ解析(compresssed spectoral array : CSA))による周波数解析を行った。2台のVTR cameraの信号を上段(両眼の眼球映像)と下段(CSA)に同時記録しこの画像をビデオテープに記録した。脳死患者3例を含む意識障害患者(Japan Coma Scale (JCS) : 3段階)47例、他植物状態患者4例、対照として眼球運動に制限のない意識清明患者8例に対して各々上記の検査を試行した。脳死患者のCSAでは完全平坦波、JCS IIIでは1Hz以内に低振幅多層性波、JCSIIでは2Hz以内に中振幅多層性波を、JCSIでは0-3Hzの間に中振幅多層性波を、意識清明患者では0-4Hzの間で意識障害が軽症になるほど高振幅多層性波が明らかに増加した。これらは各段階において眼振を伴う症例を除いていずれもその反応波はほぼ一定していた。また意識清明患者にメトロノ-ムの先端にストローを装着し、先端を注視点として60Hz, 120Hz, 150Hzで各々追視させるとCSAの1Hz, 2Hz, 2.5Hzにおいて完全な1峰性の高振幅波が得られ他の周波数域においては完全平坦波であった。以上の結果より意識清明患者及びJCS IでCSAの2Hzを境にして速波成分が明らかに多く、意識障害の重度に比例した眼球運動量の差を示し得た。
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