研究概要 |
本研究課題の目的は「ハロセン等の各種吸入麻酔薬の作用標的としてアストログリア細胞を想定し,そのグルタミン酸取り込み活性が麻酔薬により増強されることにより麻酔作用が発現する」という仮説を実証することであった。 培養アストロサイトに対するハロセンの投与には,ハロセンで飽和した反応液を希釈して投与する飽和溶液希釈法と,ハロセン混合ガスを反応液と平衝化して投与する気相平衡化法を用いたが,どちらを用いた場合でも,アストロサイトのグルタミン酸の取り込み活性を濃度依存的に増強した.その程度は気相平衡化法において,1%ハロセンで34%,4%ハロセンで64%の活性増強であった.飽和溶液希釈法により他の吸入麻酔薬である,エンフルラン,イソフルラン,セボフルランを投与した場合も,グルタミン酸取り込み活性は30〜90%増強された.しかし,静脈麻酔薬のペントバルビタール、ケタミンはいずれもグルタミン酸取り込みを増強しなかった.また,抑制性伝達物質であるGABAの取り込み活性は1〜4%ハロセンの範囲で変化しなかった.一方,グリア細胞膜小胞分画では,ハロセンのグルタミン酸取り込み増強は認められなかった. 本研究において,ハロセン等の吸入麻酔薬がアストロサイトのグルタミン酸取り込みを増強したことはアストロサイトが吸入麻酔薬の標的の少なくとも一部であることを示している.しかも,臨床で使用される濃度域(1〜2%ハロセン)で有意のグルタミン酸取り込み活性増強が観察されたことは麻酔作用機序の一つと考えられる.また,抑制性伝達物質GABAの取り込みには影響せず,興奮性伝達物質グルタミン酸の取り込みを増強することは麻酔作用機序として合理的である.
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